つづく日々(人を思い出す)

含蓄もなく、滋味もなく、大きな事件も起こらない、自分のあやふやな記憶の中の日々と人々とを散漫に思い出して書きます。

2015-01-01から1年間の記事一覧

買い食いのこと

およそ学生というものを経験した人のほとんどが買い食いをしたことがあるのではないか。僕は自転車通学だったこともあり、ついぞ買い食いをした記憶がないのだけれど。 電車を降りて、さあ家まで歩くかという時分になると、どうも胃の空白が気になって仕方が…

スノードームのこと

時節柄、インテリアショップにスノードームが並びだして、そういうのを見つけてしまうと、ついひっくり返して、雪が降るところを見たくなってしまう。 大抵、それなりの重さがあるから、手を滑らせないようゆっくりと宙で逆さにして、しばらく雪を光の中で遊…

装丁のこと

書物、言語、詩歌、文学、僕の家族は何なんらかの形で、そういったことを生業にしたり、趣味にしたり、ライフワークにしている。祖父もそうだった。やはり人の一生に言葉というものは欠かせないようである。 僕の家には昔から途方もない数の本があった。 玄…

相貌のこと

人の顔というのは、よく覚えているようで実のところうまく捕らえられていないものだ。夜のソファでひとり、はてあの人はどんな目鼻立ちだったろうと頭で考えても、はっきりとした輪郭を描くことは難しい。集中して人の顔を思い浮かべれば、限りなく精緻な靄…

紙箱の水槽のこと

男は久しぶりに実家に帰り、部屋の整理などする。部屋の掃除というのは、古書店で気になっていた本を偶然見つけるような驚きと楽しさをもって、懐かしいものとたくさん再会するものだ。彼がその日見つけたのは黒い紙箱だった。 カーテンを閉め切った少し薄暗…

冬のこと

冬がすき、マフラー、コート、フランネル、 メルトン、セーター、コーデュロイ、 ニット、ウール、そしてあたたかなポケット、 枯れ木、落ち葉、白い雪、 白い息、白い肌、白い肉まん、 キャメルのコートにグレーのズボン、 水筒にコーヒー、ポケットのおや…

足あとのこと、痕跡のこと

テレビで十数年前の映画をみた。 クリスマス、偶然出会った男女が意気投合するも、2人はあえて連絡先を教え合わない。そこで女性がロマンチックな提案を、あるいは馬鹿げた考えを持ち出す。 5ドル紙幣に名前と電話番号を書いてお店で使う、ハードカバーの本…

旅することと未来の遺品整理のこと

つらいことなんて自分だけにある話じゃないし、外を歩けばそういう人にはたくさん出会えるだろう。ありふれたことだし、もっとひどい人はたくさんいる……ということを考える つらいことがあったせいで「旅にでたい」と感情的に考える、そういうときはまだいい…

ベルーガのこと

水族館に行った。僕はベルーガの水槽が気に入った。 広く暗い部屋があって、そこはベルーガの水槽のためだけの部屋になっていた。大きな水槽は天窓からの光を受けて発光していて、照明の落とされた暗い空間の中にぽっかりと浮かんでいる。水の中では、2匹の…

体のミサイルと子供の無邪気さのこと

子供は天性の詩人である、という言葉がある。まったくその通りで、あの小き者と一緒にいると、思いもかけない発想に驚くものだ。 保育園でボランティアをした時なんかは全く面白かった。ただ話しているだけで、あの小さな口から、楽しい言葉遊びがぽろぽろと…

冬に生まれたこと

「確かに、冬っぽいと思ってたよ」と、僕の誕生日を聞いた友人が言ってくれた。僕は冬が好きだし、冬に生まれたことを気に入っていたから、これはうれしかった。 その人が生まれた季節が、その人の性格にほんの少し影響を与えるのではないか、と思う。いつも…

小学校の帰り道のこと

転校先の小学校で、いつしか一緒に帰る友達ができていた。男女6人のグループ。ハツミくんという子がリーダーだった。 僕たちは学校が終わると、誰ともなしに集まり、一緒に下校した。そして、必ず途中で公園に立ち寄った。その公園は高台の上にあるので、長…

昼間の星のこと

昼間の星を見てみたい。 強すぎる太陽の光でかき消されて見えないだけで、昼の間にも星は出ているはずだ。 月は日中でもうっすら見える。水色の空に、チョークで丁寧に描かれたような白い月が。 もし昼間の星が見えるとしたら、やはり昼間の月と同じように、…

あの頃は、

くるったようにレーズンヨーグルトチョコを食べ、グミを食べてた。

花火大会のこと

花火大会が苦手だ。外は暑いし、人ごみはつらいし、アパートのベランダから小さい花火を見る方が性に合っている気がする。 そんな僕もこの前、友人に引きずられるように花火大会にでかけた。恐らく、生きているのかどうか分からないような顔を毎日していた僕…

地下鉄とテレポートのこと

「一駅くらい歩いたらいいじゃないかっていうの、あんまり得意じゃないですね」と、後輩のヨーコさんは言った。大学2年のころ、僕はちょっとした課外活動を行う授業を履修していて、彼女とはグループを組むことになって知り合ったのだった。その日はミーティ…

いろいろなにおいのこと

忘れがたいこと。 ・子どものとき、母親のゆったりしたワンピースの中にもぐったときのにおい ・瓦礫撤去のボランティアで行った被災地のにおい ・おじいちゃんのワイシャツにしみ込んだタバコのにおい ・小学校でマラソンをしたときの脇腹の痛みと口の中の…

マツモトくんのこととお見舞いのこと

大学の友人たちは、ずっと付き合っていたいと思う人ばかり。マツモトくんもそのひとりだ。 大学1年生のとき、共通の友人であるMに連れられ、彼の家を訪れたのが最初の出会いだ。マツモトくんの根城は木造2階建てのボロアパート。部屋にはどこから引っ張って…

7月の本のこと、持つこと

日付が変わった。 悲しみは海ではないからすっかり飲み干せる Горе не море, выпьешь до дна. こういうことわざがロシアにあるらしい。たわむれにロシアのことわざを調べていて、偶然に知った。彼らはヴォトカを何杯も飲んでいるから、飲み干すということに…

休日のアイロンのこと

休日、ワイシャツにまとめてアイロンをかける。畳んでいたアイロン台を立て、ワイシャツを乗せる。歌詞のないインストルメンタルを流す。アイロンが温まるのを待つ。 まず安いワイシャツからアイロンがけを始め、高いシャツは後回しにする。高いシャツはちゃ…

なんだかいい服のこと

平日昼間、人の少ない小さな駅。一組の親子が電車を待っていた。 父親と母親に挟まれて立っている男の子は、小学校1年生くらいだろうか。 男の子の服装は次のようなものだ。ちいさな黒のサイドゴアブーツ。糊のきいた真っ白な半袖シャツ。鮮やかなキャメルの…

続・冷めたごはんのこと

冷めたごはんはすきですか?僕にとって忘れられない冷めたごはんの1つは、2011年3月の白身魚のフライだ。 電気・ガス・水道が止まったあの日に、僕はコンビニで、ミネラルウォーターと電池と白身魚のフライを買った。地震が来た時に、しっかりと浴槽に水をた…

あじさいとタイムカプセルのこと

梅雨になると、あじさいばかり。いつも注意を払っていない道端の緑が、花をつけてはじめて、実はあじさいだったのだと気がつく。結構、あじさいってたくさんあったんだな、と独り言つ。 昔、住んでいた庭で、きょうだいと一緒にタイムカプセルを埋めた。子供…

落し物のこと

たまに道路に落ちている靴、大丈夫なのだろうか。見たことありませんか?なぜか道端に片方だけ(あるいは左右両方)落ちている靴。落とした人は片足だけ裸足のまま家に帰っていったのだろうか。右足が泥だらけになって、家に帰ってきて、玄関マットに足をつ…

冷めたごはんのこと

冷めたご飯はすきですか? 冷めたご飯がすきかと聞かれて、すぐさま首肯する人は少ないと思う。ご飯はできたてであたたかいのが一番、というのが社会通念だ。 でもたまに、冷めたご飯がいとおしくなりませんか。 例えば、2限だけで帰れる期末テストなんかは…

ことばのこと

僕が耳にして(あるいは目にして口にして)、不思議と(あるいは必然と)こころに引っかかっていることばを思い出して書きます。 なんで引っかかってるんだろう?たぶん、それなりに大事だからだろうと思う。 でも、自分以外の人間からしたら、なんでもない…

続・サンドイッチのこと

ここにひとりの少女がいる。彼女は食卓につき、トーストにバターを塗っていて、いままさに朝食を食べようというところ。明るいギンガムチェックのワンピースと白いソックスが陽を受けている。彼女は色素が薄く、瞳は淡い茶色、髪を後ろで束ねている。顔のそ…

書いている文章のこと

自分の書いた文章を読み返して、改めて、きもちわるい人間だなと思う。仕方ないですね。 ビールを飲む。ビールの不思議なところは何か?といえば、それはもちろん、仲間を呼んでくることだ。テーブルの上に直立している1本の缶が、気がつけば2本3本と増えて…

借りたCDのこと

雨の日に貸してもらったCDをかけて毛布の中でまどろむ 偶然にも七五調になっているとうれしいですね。 僕は何を隠そう、音楽を聞かない方の人間だ。小学校から大学に至るまで、1枚のCDも買ったことがないし、TSUTAYAでCDを借りることもしなかった。 そんなわ…

サンドイッチのこと

もう、しばらくサンドイッチをつくっていない。 僕は朝食に好んでサンドイッチをつくる(あるいは「つくっていた」)。といっても手の凝ったものではなくて、簡単なやつだ。 最後にサンドイッチをつくった一番近い記憶は、数ヶ月前、冬の日だ。底冷えする朝…