落し物のこと
たまに道路に落ちている靴、大丈夫なのだろうか。見たことありませんか?なぜか道端に片方だけ(あるいは左右両方)落ちている靴。落とした人は片足だけ裸足のまま家に帰っていったのだろうか。右足が泥だらけになって、家に帰ってきて、玄関マットに足をついて、「あ、右だけ汚れているじゃないか」って気がついて、いま脱いだばかりの、片方だけになった靴を履きなおして、落とした靴を探しに行くのだろうか。
繁華街を歩いていて、折れ曲がったA4の紙が落ちているのを見つけた。ゴシック体で「テストページ」と書かれた紙は、プリンターの調子を確かめるテストプリントだった。紙は、風に押されて石畳の上を少しずつ移動している。不思議な落し物だ。なんでこんなところにこんなものがあるのだろう。だって、テストページなんて、生まれてすぐにゴミ箱に放り込まれる運命なのに。
これからこの紙は、風に削られ、雨にふやかされ、靴の下敷きになり、土埃を身にまとい、散り散りばらばらになるのだろうな。体を失いながら旅をするのかな。生まれてすぐにゴミ箱に入れられるのと、果たしてどちらがいいのだろう?