つづく日々(人を思い出す)

含蓄もなく、滋味もなく、大きな事件も起こらない、自分のあやふやな記憶の中の日々と人々とを散漫に思い出して書きます。

2013-08-01から1ヶ月間の記事一覧

キンモクセイのこと

秋、学食からバス停まで歩く途中、キンモクセイのにおいがする。 「キンモクセイの香水があったら売れると思うな」傍らの友人はそう言った。僕はそうは思わないが、彼は秋が来る度にこのささやかな思いつきをつぶやくのだ。彼はキンモクセイが好きだった。 …

老夫婦のことと小さな洋食屋のこと

駅前のビルの二階の小さな洋食屋。その言葉にはなんとも言えない幸せな響きがある。 「最近、少し寂れたくらいの店が好きになってきた。派手だったりきらびやかなところよりも落ち着く。大人になったのかな」町外れの中華料理屋で、大学の友人がそんなことを…

タバコのこと

渋い顔をして、目を細めてライターを握り、タバコに火をつける。父方の祖父も母方の祖父もそうして紫煙をくゆらせた。 僕の両親は昔、タバコを吸っていたそうだ。しかし僕が生まれるとなって、二人はきっぱりタバコをやめたという。 僕はタバコは吸わないけ…

リョウくんのこと

中学校一年生の頃だったか、僕は数人の友達と共に登校していた。 いつも三、四人で登校する中にリョウくんはいた。 彼と僕は別段親しいわけではなかった。ただ同じ小学校出身ということと、共通の友達がいるということが僕たちをゆるくゆるく繋いでいた。 彼…

学校近くの文房具屋のこと

幼稚園から小学校へ上がったとき、僕は学校嫌いになっていた。 熱がある風を装ったり、率直に「行きたくない!」と訴え、登校を拒否していた。 しかし母は強く、泣く僕を引っ張って小学校に連れて行った。僕は家の方を向いて、母は学校の方向へ、互いの腕を…