布団の洞窟のこと
子どものころ、羽毛布団にくるまって、じっとしていることがあった。
布団を体に巻きつけるのではなく、すこし空間を持たせてドーム状にする。そうすると、ぼこぼこした布団はやわらかな洞窟のようになった。
昼の光が布団を突き抜け、羽毛が詰まっているところとそうでないところをあらわにした。濃淡が透けて見えていた。
本来軽やかなはずの羽毛、その羽毛が詰まっているところは黒く、重く、濁って、湿って見えた。
布団の中は昼でも薄暗く見える。
その中に、よくキーホルダーとアナログの置き時計を持ち込んでいた。
理由は単純で、どちらも蓄光塗料が塗ってあるからだ。子供は暗闇で光るものに目がない。
窓際に置いたキーホルダーは、蓄光塗料(ルミネセンス)をたっぷりその身に吸い込んで、布団の中で緑色にぼやける。ただそれを見ているだけで時間が潰せた。
蓄光塗料が塗られた置き時計の長針を、意味もなく眺める時間があった。そこで時計は時刻表示という機能を捨てて、ただ発光する立方体としての役割を求められていた。燐光をただ見ていた。
いまでは考えられない時間の感覚であった。