つづく日々(人を思い出す)

含蓄もなく、滋味もなく、大きな事件も起こらない、自分のあやふやな記憶の中の日々と人々とを散漫に思い出して書きます。

11月のこと

夏が終わり、時間は水切り石のようにたったったっと過ぎ去って、11月になった。

干からびたバターみたいな落ち葉が、アスファルトのあちらこちらで折り重なっている。スウェット1枚で暑い日もあれば、コートを羽織らないと寒い日もある。みなクローゼットに頭半分つっこんで、探り探り服を着る。

ほんのり防虫剤の匂いがするコートで、前方からやってくる木枯しをしかめっつらで受け止める。寒い季節にはしかめっつらが似合うからだ。

2020年は色んなことがありすぎた。さっきまで目新しかったものが、まばたきするうちに常識になっている。

ベンチに座る。マスクを外して息を吸う。乾いた土の匂いが肺を塗り替えて、そういや嗅覚は季節のしっぽを掴むための器官だったと思い出す。

ふと目を落とすと、フランネルのズボンに石炭のかけらみたいなものが乗っかっている。よく見るとそれは蚊だった。右手ではたく。逃げるまもなく石炭は潰れた。はたりと落ちる。ふわりと消える。夏にとどめを刺した気がした。暖かい日が続いている。けれど、いいかげん秋を迎え入れないといけない。