つづく日々(人を思い出す)

含蓄もなく、滋味もなく、大きな事件も起こらない、自分のあやふやな記憶の中の日々と人々とを散漫に思い出して書きます。

花火大会のこと

花火大会が苦手だ。外は暑いし、人ごみはつらいし、アパートのベランダから小さい花火を見る方が性に合っている気がする。

そんな僕もこの前、友人に引きずられるように花火大会にでかけた。恐らく、生きているのかどうか分からないような顔を毎日していた僕を、気遣って連れて行ってくれたのではないかなと思う。男が3人に女が5人、割と大所帯だ。

 

案の定、会場は人でごったがえしていた。夏の夜空はありったけの湿気を抱え込んで、人と人の間に隙間なく入り込んでいる。

 

やがて花火が始まった。感慨もなく色とりどりの火を眺める。乾いた音が樹木をゆらす。自分を含め、周りの人々はみんな同じ方角、北西の空を向いている。浴衣がいたり、Tシャツがいたり......。たくさんの後頭部が並んでいる。

そこで僕はちょっとしたひねくれ心を出して、花火の方を見るのをやめて、わざと後ろを向いてみた。急にいくつもの人の顔に出くわす。そしてその顔は、多少の差はあれど、みんながみんな同じような表情をしていた。嬉しそうな、驚いているような、それでいて泣き出しそうな、あるいは無心のような......それらの表情がみな空を見つめていて、赤や緑やオレンジの炎色反応の光で浮き上がっている。極め付けは彼らの頭上だった。さみしくなるくらい何もない夜空、カステラのような色合いの月がひとつ、暗闇の上にのっかっている。花火大会がある中で、今夜の月は明らかに脇役だった。にも関わらず、その日はクレーターがはっきりと分かる美しい、本当に美しい月だった。この人々の表情と、月のおかげで、僕は花火大会に大いに満足することとなった。