つづく日々(人を思い出す)

含蓄もなく、滋味もなく、大きな事件も起こらない、自分のあやふやな記憶の中の日々と人々とを散漫に思い出して書きます。

食べもの

北欧の夜のこと

スウェーデンの夜を覚えている。2月のスウェーデン。坂道を歩く。サーブ、フォルクスワーゲン、トヨタ、表情豊かな車が路肩に並び、眠っている。不思議とどの車もくすんだ色になる。 北欧の夜には不思議な静寂がある。凍ったアスファルトが音を吸いとってし…

お金持ちになったらのこと

お金持ちになったら何をしたい?とか、10億円当たったら?とかは、会話の間をつぶす、定番の質問だ。 根が小市民だし、特に夢もないから、答えに詰まってしまう。ふと出てきたのが「ヤクルトの5本パックを一気飲みしたい」くらい。それくらいだった。 この前…

場所と飲/喫みもののこと

知り合いの中国人から面白いことを聞いた。曰く、家から数駅の場所に遊園地があるのだが、そこの年間パスポートを持っているという。よほどその遊園地が好きなのかと聞くと、特に思い入れがあるわけではないらしい。 彼が遊園地に赴くタイミングは、観光にき…

みそ汁のこと

みそ汁からは、その人の家庭が見えてくる。本当に、家によってみそ汁のバリエーションは様々だ。ある家庭で普通だと思っていた具材が、あっちの家庭では珍しかったり、ある人のこだわりが、別の人には全く理解されなかったり、そういうことが往々にしてある…

買い食いのこと

およそ学生というものを経験した人のほとんどが買い食いをしたことがあるのではないか。僕は自転車通学だったこともあり、ついぞ買い食いをした記憶がないのだけれど。 電車を降りて、さあ家まで歩くかという時分になると、どうも胃の空白が気になって仕方が…

あの頃は、

くるったようにレーズンヨーグルトチョコを食べ、グミを食べてた。

続・冷めたごはんのこと

冷めたごはんはすきですか?僕にとって忘れられない冷めたごはんの1つは、2011年3月の白身魚のフライだ。 電気・ガス・水道が止まったあの日に、僕はコンビニで、ミネラルウォーターと電池と白身魚のフライを買った。地震が来た時に、しっかりと浴槽に水をた…

冷めたごはんのこと

冷めたご飯はすきですか? 冷めたご飯がすきかと聞かれて、すぐさま首肯する人は少ないと思う。ご飯はできたてであたたかいのが一番、というのが社会通念だ。 でもたまに、冷めたご飯がいとおしくなりませんか。 例えば、2限だけで帰れる期末テストなんかは…

続・サンドイッチのこと

ここにひとりの少女がいる。彼女は食卓につき、トーストにバターを塗っていて、いままさに朝食を食べようというところ。明るいギンガムチェックのワンピースと白いソックスが陽を受けている。彼女は色素が薄く、瞳は淡い茶色、髪を後ろで束ねている。顔のそ…

サンドイッチのこと

もう、しばらくサンドイッチをつくっていない。 僕は朝食に好んでサンドイッチをつくる(あるいは「つくっていた」)。といっても手の凝ったものではなくて、簡単なやつだ。 最後にサンドイッチをつくった一番近い記憶は、数ヶ月前、冬の日だ。底冷えする朝…

うなぎのこと

年始に家族でうなぎを食べた。これはその報告です。 1月の風が鼻と耳をさす中、通りを歩く。行きつけの鰻屋に入る。店内はあたたかい。座布団の上にあぐらを書いて品書きを見る。あたたかいお茶が運ばれてくる。注文をする。 まずうなぎの骨せんべいと肝焼き…

粗野なふるまいとビスケットのこと

写真家か何かが、彼の友人である有名なファッションデザイナーについて語る、という本があった。その中に序文として記されていたことが妙に印象に残っている。「彼の作るセーターなんかは、荒々しく使われ、毛玉がたくさんできて、おやつに食べたクッキーの…

台所の食事のこと

腹が減ったが料理は面倒、外に出るのもおっくうだ。そんな時、台所の食事をする。 夏はトマト。水道でじゃぶじゃぶ洗い、おもむろにかじりつく。一瞬、トマトの赤い皮が歯に当たった時の「きゅっ」という感触がしたかと思うと、トマトははじけて、すぐに口い…

フクオ先生のレゾン・デートルのこと

中学一年生の数学は、フクオ先生という初老の先生が担当していた。 年齢を思わせる白髪まじりの頭髪に反し、背は曲がっていなかったため、長身が余計に際立っていた。分厚いメガネは四角くて、全体として定規のような先生であった。 先生はその直線的な特徴…

にぎやかで愛らしい食物のこと

変人で知られ、古い映画好きである友人が、すき好んで飲んでいたのが、ウィルキンソンのジンジャーエールだった。 なにしろその友人のアパートは、映画のDVDやパンフレットにまみれ、やけに汚い調理道具や2世代前くらいのゲーム機、マイナーな小説や漫画、よ…

しいたけの音のこと

新年になった。1月、冬、冬といえば鍋である。 今年も新年は家族、祖父母で集まり、とり肉のお鍋を晩ご飯に食べた。毎年恒例だ。 テーブルに並んだ、おさしみ、いくら、おせちの残り、だいこんおろしと小ネギ、鍋用のやさいたち、きのこたち、それと少し高価…

白ごまおにぎりのこと

幼稚園から小学校にかけて、僕の朝食はおにぎりだと決まっていた。 母がにぎるおにぎりは毎朝ちがう具だった。塩おにぎりの時もあれば、塩昆布が混ぜ込まれていたり、鮭が入っていたり、たまに遊び心でソーセージがつきささっていたりして、僕はそれがとても…

老夫婦のことと小さな洋食屋のこと

駅前のビルの二階の小さな洋食屋。その言葉にはなんとも言えない幸せな響きがある。 「最近、少し寂れたくらいの店が好きになってきた。派手だったりきらびやかなところよりも落ち着く。大人になったのかな」町外れの中華料理屋で、大学の友人がそんなことを…

親父のこととジョナサンのこと

僕は親父に対して、憧れと尊敬の念を持っている。文章だから書ける。言葉ではとても言えないが。 ことに幼稚園、小学校低学年の時分は、親父によく懐いていた。 家族がまだ東京に住んでいたころを思い出す。僕は小学校低学年の間、東京に住んでいた。そして…

裏庭のブラックベリーのこと

僕はいまのところ、人生で7回引っ越しをしている。 一人暮らしをする前、まだ実家に住んでいたときの、昔の家をたまに思い出す。 昔住んでいた実家はこじんまりとしていて、僕ら家族が住むには少々狭い家であった。その家の裏庭のこと、そこに植えてあったブ…

ヨウくんのことと学食の唐揚げ定食のこと

友人にヨウくんという人がいる。 彼は(僕の学部にしては珍しく)引き締まった体躯の持ち主で、長身、肌は薄く小麦色をしている。彼は見た目も中身もまさしく好青年であり、その爽やかな笑顔と、優しい性格には誰もが惹かれていた。 僕はあまり彼とは親しく…