つづく日々(人を思い出す)

含蓄もなく、滋味もなく、大きな事件も起こらない、自分のあやふやな記憶の中の日々と人々とを散漫に思い出して書きます。

続・サンドイッチのこと

ここにひとりの少女がいる。彼女は食卓につき、トーストにバターを塗っていて、いままさに朝食を食べようというところ。明るいギンガムチェックのワンピースと白いソックスが陽を受けている。彼女は色素が薄く、瞳は淡い茶色、髪を後ろで束ねている。顔のそばかすが特徴的だが、それは欠点としてではなく、むしろその顔立ちをいっそう魅力的にするものとして、頬に散らばっている。ふと、彼女は手を滑らせてしまう。持っていたトーストは不幸にも、バターの面を下にして床に着地した。実はこれと同時に、遠く離れた場所でも、同じようにパンを落としてしまった男がいた。彫りの深い精悍な顔つきの男は、その凛々しい眉に似合わず、よれたワイシャツを着ている。テーブルには間食のために用意されたパンと、濃いインスタントコーヒーが置かれている。彼はいま、食パンを胃に流し込むための大切な準備、つまりピーナツバターをパンの表面に塗り込む作業をしていた。しかしまさにそのとき、男は不運にもパンを落としてしまう。声を上げたときには既に遅く、ピーナツバターが塗られた面と、傷だらけのフローリングとがぴったりくっついていた。

さて、一見無関係に思えるこのふたりには、2つの特別な繋がりがあった。ひとつは、全く同時にパンを落としたということ。もうひとつは、彼らはお互いに、地球を挟んでちょうど同じ位置にいたということだ。少女が座っている場所、その地球の裏側に男が座っていた。つまり、彼/彼女が落としたトーストもまた、地球を隔てて向かい合っていたことになる。それって、地球を丸ごと挟んだ大きなサンドイッチができていた……ということにはならないですか?ならないですね。