つづく日々(人を思い出す)

含蓄もなく、滋味もなく、大きな事件も起こらない、自分のあやふやな記憶の中の日々と人々とを散漫に思い出して書きます。

2014-01-01から1年間の記事一覧

粗野なふるまいとビスケットのこと

写真家か何かが、彼の友人である有名なファッションデザイナーについて語る、という本があった。その中に序文として記されていたことが妙に印象に残っている。「彼の作るセーターなんかは、荒々しく使われ、毛玉がたくさんできて、おやつに食べたクッキーの…

ハンカチおとしのこと

駅からの帰り道、僕はハンカチおとしに遭遇した。 駅の裏道、塾やドラッグストアに挟まれて、小さなマンションが建っている。そこは裏道になっていて、道幅が細く、車は通れない。灰色のタイル張りの外観と、前時代的なネーミングが彫られた看板を掲げたマン…

東京の小さな庭のこと

子どものころに住んでいた東京の家には、小さな庭があった。何でもない、本当に小さな、あるいはささやかな庭だった。 その頃、まだ僕は幼かったし、父も母も若かった。 庭では、よく父がゴルフの素振りをしていた。僕は窓際に座りながらそれを見ていた。ゴ…

洗濯機の海のこと

夏の終わり頃、14時、日差しが照りつけているが、朝方に降った雨のおかげで、そこまで暑くない日。 涼しい風が窓を抜けカーテンを揺らす中、フローリングに寝転んで、本を眺めている。 別の部屋から、洗濯機が回る音が、声を押し殺したような音量で聞こえて…

台所の食事のこと

腹が減ったが料理は面倒、外に出るのもおっくうだ。そんな時、台所の食事をする。 夏はトマト。水道でじゃぶじゃぶ洗い、おもむろにかじりつく。一瞬、トマトの赤い皮が歯に当たった時の「きゅっ」という感触がしたかと思うと、トマトははじけて、すぐに口い…

テーブルの上の花火のこと

もっぱら味のない炭酸水ばかり飲んでいる。暑い日はよけいにガス入りの水がうまい。 僕はその日、研究室でも炭酸水を飲んでいた。 時刻はほとんど深夜で、僕以外に人はおらず、エアーコンディショナーのくぐもった排気音だけがしている。僕はパソコンで何か…

フクオ先生のレゾン・デートルのこと

中学一年生の数学は、フクオ先生という初老の先生が担当していた。 年齢を思わせる白髪まじりの頭髪に反し、背は曲がっていなかったため、長身が余計に際立っていた。分厚いメガネは四角くて、全体として定規のような先生であった。 先生はその直線的な特徴…

にぎやかで愛らしい食物のこと

変人で知られ、古い映画好きである友人が、すき好んで飲んでいたのが、ウィルキンソンのジンジャーエールだった。 なにしろその友人のアパートは、映画のDVDやパンフレットにまみれ、やけに汚い調理道具や2世代前くらいのゲーム機、マイナーな小説や漫画、よ…

しいたけの音のこと

新年になった。1月、冬、冬といえば鍋である。 今年も新年は家族、祖父母で集まり、とり肉のお鍋を晩ご飯に食べた。毎年恒例だ。 テーブルに並んだ、おさしみ、いくら、おせちの残り、だいこんおろしと小ネギ、鍋用のやさいたち、きのこたち、それと少し高価…