つづく日々(人を思い出す)

含蓄もなく、滋味もなく、大きな事件も起こらない、自分のあやふやな記憶の中の日々と人々とを散漫に思い出して書きます。

なんだかいい服のこと

平日昼間、人の少ない小さな駅。一組の親子が電車を待っていた。

父親と母親に挟まれて立っている男の子は、小学校1年生くらいだろうか。
男の子の服装は次のようなものだ。ちいさな黒のサイドゴアブーツ。糊のきいた真っ白な半袖シャツ。鮮やかなキャメルの半ズボン。ざっくり編まれた深いターコイズのストローハット。はっきり言って、年齢の割にすごく品がいいコーディネートだ。しかし、日焼けした手足と好奇心をたたえた瞳からあふれる子供特有のあの生命力は、折り目のついたシャツとズボンでも隠しきれないようであった。いまにも駆け出しそうな体躯と、落ち着いた上品な衣服が混じり合って、小さな探検家のような印象を受ける。
ふと、電車を待つのに飽きてきたのか、男の子がそわそわとシャツを気にしだした。
「ねえ、おかあさん」もじもじした息子に、なあに?と母が応える。「あのね、ここに取れないシミついてる……」母親は子どもと一緒にシャツを覗き込み、一瞬の間を置いて、顔をほころばせた。「あのね、それはシミじゃなくて、お馬さんに乗ってスポーツをする人の絵なんだよ」もし僕がラルフ・ローレンさんと友達だったら、このほほえましいエピソードについて、彼にすぐ手紙を書いていただろうなと思う。