つづく日々(人を思い出す)

含蓄もなく、滋味もなく、大きな事件も起こらない、自分のあやふやな記憶の中の日々と人々とを散漫に思い出して書きます。

11月のこと

夏が終わり、時間は水切り石のようにたったったっと過ぎ去って、11月になった。 干からびたバターみたいな落ち葉が、アスファルトのあちらこちらで折り重なっている。スウェット1枚で暑い日もあれば、コートを羽織らないと寒い日もある。みなクローゼットに…

北欧の夜のこと

スウェーデンの夜を覚えている。2月のスウェーデン。坂道を歩く。サーブ、フォルクスワーゲン、トヨタ、表情豊かな車が路肩に並び、眠っている。不思議とどの車もくすんだ色になる。 北欧の夜には不思議な静寂がある。凍ったアスファルトが音を吸いとってし…

お金持ちになったらのこと

お金持ちになったら何をしたい?とか、10億円当たったら?とかは、会話の間をつぶす、定番の質問だ。 根が小市民だし、特に夢もないから、答えに詰まってしまう。ふと出てきたのが「ヤクルトの5本パックを一気飲みしたい」くらい。それくらいだった。 この前…

冬のコートのポケットのこと

そして2018年が朝日とともにうっすらと住宅街を覆いました。1月1日です。おせちを食べ、冬の霜、ビールを飲み、風が吹き、鍋をつつき、土が乾いて、夕方が去り夜がきていました。 冬が好きな理由のひとつとして、冬服を着られるというものがあります。カシミ…

軽石のこと

石を愛でていた。小学生の時だった。 子供のころは、誰しもお気に入りの宝物を持っていたと思う。大人の目から見ると、それはつまらないものだったり、あるいはゴミと紙一重のものだったりするけれども。 僕の持っていた宝物のひとつに、軽石があった。多孔…

祖父への贈り物のこと

祖父にブルーレイレコーダーを贈った。今まで使っていたものが壊れておじいちゃんが困っていると母から聞いたから。 ドラマが好きだが夜9時には床についてしまう祖父にとって、レコーダーはまさしく必需品だった。病を患って、歩くことが年々難しくなってい…

場所と飲/喫みもののこと

知り合いの中国人から面白いことを聞いた。曰く、家から数駅の場所に遊園地があるのだが、そこの年間パスポートを持っているという。よほどその遊園地が好きなのかと聞くと、特に思い入れがあるわけではないらしい。 彼が遊園地に赴くタイミングは、観光にき…

みそ汁のこと

みそ汁からは、その人の家庭が見えてくる。本当に、家によってみそ汁のバリエーションは様々だ。ある家庭で普通だと思っていた具材が、あっちの家庭では珍しかったり、ある人のこだわりが、別の人には全く理解されなかったり、そういうことが往々にしてある…

庭の水やりのこと

夏休みは水やりの日々。子どもの頃の夏休みは、家でだらだら過ごしていると、さまざまな「おてつだい」が降ってきて、それをイヤイヤこなしていた。朝、庭の植物に水やりをするのも、おてつだいのひとつであった。 とぐろを巻いたホースを引っぱり出し、蛇口…

久しく忘れているものたちのこと

ビー玉の味 おはじきの味 手の平についた草のしる セロハンテープを顔に貼って、剥がした後、あぶらがとられてつっぱるかんじ ちいさな抜け道に落ちてるヘビの抜けがら 新聞紙でつくった剣の硬さ 気が重いピアノのおけいこ プールのときの、痛いからあんまり…

はなむけの酒

この散文は11月の寒い夜に書き始められた。なんとはなしに書こうかと思った。3月に書けばよいのに、年の暮れから書き始めているのは酔狂である。 ある事柄について語るとき、中心を掴むよりも、周縁をなぞることで、そのものの性質が浮かび上がる、そういう…

カセットテープのこと

「テープに吹き込む」って考えてみると不思議な表現だ。テープに耳があって、そこに語りかけるよう。 ビデオは「録る」、CDになると「焼く」という言葉になる。レコードはどうだったんだろう。「刻む」? こうやって並べてみると、やはり、吹き込むという言…

うさぎのかじりあとのこと

実家に帰ると、ふと椅子の上に置いてあるクロエのバッグが目についた。経年変化で革の色は濃くなり、デザインも今風ではないから、ごく古いものだろう。そのバッグに一箇所、七宝焼きのような青い円形の装飾が付けられている。聞けば、うさぎにバッグをかじ…

身支度のこと

年末年始の休日、冬の朝は、他の季節よりも少しゆっくり身支度をしてみる。 昨夜の作り置きをあたため、白米と目玉焼き、佃煮とお味噌汁で食べる。ざっと洗い物をやっつける。 お風呂に入る。設定温度は40度だけどそれより熱く感じる。 髭を剃る。ドライヤー…

買い食いのこと

およそ学生というものを経験した人のほとんどが買い食いをしたことがあるのではないか。僕は自転車通学だったこともあり、ついぞ買い食いをした記憶がないのだけれど。 電車を降りて、さあ家まで歩くかという時分になると、どうも胃の空白が気になって仕方が…

スノードームのこと

時節柄、インテリアショップにスノードームが並びだして、そういうのを見つけてしまうと、ついひっくり返して、雪が降るところを見たくなってしまう。 大抵、それなりの重さがあるから、手を滑らせないようゆっくりと宙で逆さにして、しばらく雪を光の中で遊…

装丁のこと

書物、言語、詩歌、文学、僕の家族は何なんらかの形で、そういったことを生業にしたり、趣味にしたり、ライフワークにしている。祖父もそうだった。やはり人の一生に言葉というものは欠かせないようである。 僕の家には昔から途方もない数の本があった。 玄…

相貌のこと

人の顔というのは、よく覚えているようで実のところうまく捕らえられていないものだ。夜のソファでひとり、はてあの人はどんな目鼻立ちだったろうと頭で考えても、はっきりとした輪郭を描くことは難しい。集中して人の顔を思い浮かべれば、限りなく精緻な靄…

紙箱の水槽のこと

男は久しぶりに実家に帰り、部屋の整理などする。部屋の掃除というのは、古書店で気になっていた本を偶然見つけるような驚きと楽しさをもって、懐かしいものとたくさん再会するものだ。彼がその日見つけたのは黒い紙箱だった。 カーテンを閉め切った少し薄暗…

冬のこと

冬がすき、マフラー、コート、フランネル、 メルトン、セーター、コーデュロイ、 ニット、ウール、そしてあたたかなポケット、 枯れ木、落ち葉、白い雪、 白い息、白い肌、白い肉まん、 キャメルのコートにグレーのズボン、 水筒にコーヒー、ポケットのおや…

足あとのこと、痕跡のこと

テレビで十数年前の映画をみた。 クリスマス、偶然出会った男女が意気投合するも、2人はあえて連絡先を教え合わない。そこで女性がロマンチックな提案を、あるいは馬鹿げた考えを持ち出す。 5ドル紙幣に名前と電話番号を書いてお店で使う、ハードカバーの本…

旅することと未来の遺品整理のこと

つらいことなんて自分だけにある話じゃないし、外を歩けばそういう人にはたくさん出会えるだろう。ありふれたことだし、もっとひどい人はたくさんいる……ということを考える つらいことがあったせいで「旅にでたい」と感情的に考える、そういうときはまだいい…

ベルーガのこと

水族館に行った。僕はベルーガの水槽が気に入った。 広く暗い部屋があって、そこはベルーガの水槽のためだけの部屋になっていた。大きな水槽は天窓からの光を受けて発光していて、照明の落とされた暗い空間の中にぽっかりと浮かんでいる。水の中では、2匹の…

体のミサイルと子供の無邪気さのこと

子供は天性の詩人である、という言葉がある。まったくその通りで、あの小き者と一緒にいると、思いもかけない発想に驚くものだ。 保育園でボランティアをした時なんかは全く面白かった。ただ話しているだけで、あの小さな口から、楽しい言葉遊びがぽろぽろと…

冬に生まれたこと

「確かに、冬っぽいと思ってたよ」と、僕の誕生日を聞いた友人が言ってくれた。僕は冬が好きだし、冬に生まれたことを気に入っていたから、これはうれしかった。 その人が生まれた季節が、その人の性格にほんの少し影響を与えるのではないか、と思う。いつも…

小学校の帰り道のこと

転校先の小学校で、いつしか一緒に帰る友達ができていた。男女6人のグループ。ハツミくんという子がリーダーだった。 僕たちは学校が終わると、誰ともなしに集まり、一緒に下校した。そして、必ず途中で公園に立ち寄った。その公園は高台の上にあるので、長…

昼間の星のこと

昼間の星を見てみたい。 強すぎる太陽の光でかき消されて見えないだけで、昼の間にも星は出ているはずだ。 月は日中でもうっすら見える。水色の空に、チョークで丁寧に描かれたような白い月が。 もし昼間の星が見えるとしたら、やはり昼間の月と同じように、…

あの頃は、

くるったようにレーズンヨーグルトチョコを食べ、グミを食べてた。

花火大会のこと

花火大会が苦手だ。外は暑いし、人ごみはつらいし、アパートのベランダから小さい花火を見る方が性に合っている気がする。 そんな僕もこの前、友人に引きずられるように花火大会にでかけた。恐らく、生きているのかどうか分からないような顔を毎日していた僕…

地下鉄とテレポートのこと

「一駅くらい歩いたらいいじゃないかっていうの、あんまり得意じゃないですね」と、後輩のヨーコさんは言った。大学2年のころ、僕はちょっとした課外活動を行う授業を履修していて、彼女とはグループを組むことになって知り合ったのだった。その日はミーティ…