台所の食事のこと
腹が減ったが料理は面倒、外に出るのもおっくうだ。そんな時、台所の食事をする。
夏はトマト。水道でじゃぶじゃぶ洗い、おもむろにかじりつく。一瞬、トマトの赤い皮が歯に当たった時の「きゅっ」という感触がしたかと思うと、トマトははじけて、すぐに口いっぱいに甘みが広がる。やわらかすぎて勝手に身がほぐれる。
冬はりんご。包丁でてきとうに皮を剥く。おもむろにかじりつく。ちょっとだけ、はぐきが負けそうになる。しゃりしゃりと良い音がして、甘いジュースがあふれる。芯を残して、りんごはくるくる回転しながら、食べられていく。
食べるときはずっと台所に立っている。トマトもりんごも、果汁がしたたるから、シンクの上がちょうどよいのだ。台所の食事をするときは、何も考えずに無心でかじっている。食べ終わったら手と口をゆすいで、うん、うまかった、とひとりごちて、台所の食事は終わる。さて、部屋に戻ろう。