つづく日々(人を思い出す)

含蓄もなく、滋味もなく、大きな事件も起こらない、自分のあやふやな記憶の中の日々と人々とを散漫に思い出して書きます。

洗濯機の海のこと

夏の終わり頃、14時、日差しが照りつけているが、朝方に降った雨のおかげで、そこまで暑くない日。

涼しい風が窓を抜けカーテンを揺らす中、フローリングに寝転んで、本を眺めている。

別の部屋から、洗濯機が回る音が、声を押し殺したような音量で聞こえている。

「すすぎ」の工程では、ぶーん、というモーター音と、勢いよく動く水の音が、交互に聞こえる。

モーターは低く、壁に吸い込まれて小さくしぼむ。水の音は少し鋭くて、扉を閉めていてもよく聞こえてくる。意識して水音だけを拾ってみる。

窓から入ってくる風にあたりながら、その水音だけに集中すると、海に来て、やさしく岩場にぶつかる波の音を聞いているような錯覚がする。

しかし、モーター音が聞こえ、現実に引き戻される。

お手軽な6畳アパートの海。