つづく日々(人を思い出す)

含蓄もなく、滋味もなく、大きな事件も起こらない、自分のあやふやな記憶の中の日々と人々とを散漫に思い出して書きます。

テーブルの上の花火のこと

もっぱら味のない炭酸水ばかり飲んでいる。暑い日はよけいにガス入りの水がうまい。

 

僕はその日、研究室でも炭酸水を飲んでいた。

時刻はほとんど深夜で、僕以外に人はおらず、エアーコンディショナーのくぐもった排気音だけがしている。僕はパソコンで何か書き物をしていて、炭酸水はそのお供であった。

 

炭酸水を一口飲んで机に置こうとしたとき、手が滑って、ボトルを勢いよく倒してしまった。ボトルは思ったよりも強く机に叩き付けられていたようで、中身が盛大にこぼれた。黒いメラミン仕上げのテーブルの上に水が広がる。広がった水の中で気泡がぱちぱちと威勢よくはじけている。蛍光灯がそれを照らして、気泡そのものがぺかぺかと光った。まるで花火みたいだと思った。

 

まだキャップを開けたばかりで炭酸が強かったというのもあり、この色のない花火はしばらく続いた。疲れていた僕は、それをぼーっと見つめていた。二酸化炭素が抜けきると花火は終わった。そこにあるのはただの濡れた机だった。なんだか僕自身も気が抜けてしまった。椅子のリクライニングを深く倒してしばらくじっとしていた。