つづく日々(人を思い出す)

含蓄もなく、滋味もなく、大きな事件も起こらない、自分のあやふやな記憶の中の日々と人々とを散漫に思い出して書きます。

ハンカチおとしのこと

駅からの帰り道、僕はハンカチおとしに遭遇した。

駅の裏道、塾やドラッグストアに挟まれて、小さなマンションが建っている。そこは裏道になっていて、道幅が細く、車は通れない。灰色のタイル張りの外観と、前時代的なネーミングが彫られた看板を掲げたマンションが、その裏道に影を落としている。

その影の中で、小学校4,5年生くらいの女の子が7人、円形に座っていた。みんな、どことなく服装が似ている。フリルのついたTシャツや、英字の書かれたタンクトップ、白いスカートや華奢なジーンズ。どの子の服も、ピンクかターコイズかホワイトの組み合わせだった。みんなビビッドな色合いで、灰色のマンションから浮いて見える。

背格好も服装も、何となく同じ雰囲気を持つ女の子たちが、円形になっている。何をしているのか最初は分からなかったが、円陣を回る女の子が白いハンカチを持っているのを見て、それがやっとハンカチおとしだということがわかった。

子どもの頃を思い出して欲しいのだが、ハンカチおとしというのは大抵、無言のうちに行われる。途中、ハンカチを落とされた子どもがそれに気付き、「あっ」とか「きゃっ」とか声をあげる以外はほとんど沈黙の世界だ。

夕暮れ前の曇り空、灰色のマンションの前、鮮やかな服を着た女の子たちが無言で円形に座している。しかもみんながみんな、体育座りで、黙って目の前の地面を見ている。なんだかすごく不思議な光景だった。おまけに人通りがない道で、僕と女の子たちの他には誰もいなかったから、余計に奇妙な感じがした。ハンカチおとしの横を通り過ぎながら、異国の地で、何かの儀式を見たような気分になった。