十月の雨のこと
水にひたすと、大抵のものはやわらかくなる。
土、お米、教科書、パン、乾燥したローリエ、スパゲティ、あずき......。
ふと、十月の雨というものは、丁度いいものだなと思った。
九月の雨は、まだ少し蒸し暑そうだ。十一月の雨は、冷たくて指がかじかむだろう。十月の雨は、少し肌ざむくなってきた街路を、湿気で温かくしてくれる。
日が落ちるのが早くなってきた十月、とりわけ夕刻に降る雨は良い。湿気が遠くの景色をぼやけさせ、夕焼けにさしかかる太陽が町中を黄土色に染める。セピアになった写真のように、色々なものがぬるい黄色になる。
しとしとと落ちる十月の弱い雨が、アスファルトに降り、イチョウの並木に降り、野球場に降り、種のまかれた畑に降り、干しっぱなしのシャツがかかったアパートのベランダに降る。水を含んだ空気が輪郭をぼやかす。
なんだか、全てのものが水を含み、やわらかくなっているような気がする。