つづく日々(人を思い出す)

含蓄もなく、滋味もなく、大きな事件も起こらない、自分のあやふやな記憶の中の日々と人々とを散漫に思い出して書きます。

大学の並木のこと

童話の世界ではお菓子の家というものがあるが、僕はそれに似た、お菓子の風景を見たことがある。

 

季節は十二月、僕は四年生で、他の大学生と同じように、卒業までにやらなくてはならないことが背中にのしかかっていた。そんなわけだから、この冬は、朝早く起きて研究室に行き、夜遅くに帰ってくるという生活がずっと続いていた。

 

いつもと同じようにメルトン生地のコートを着、朝早くにアパートを出る。冬の朝は静かでいい。自分の生まれた季節だからだろうか、僕は冬が好きであった。

鼻先が冷えていくのを感じながら、コンビニの前を通り過ぎ、大学へと歩く。

 

大学の研究棟の近くには長い並木道があって、夏などは瑞々しい青のトンネルができる。いまはその寒さから、並木は黄色く色づいていた。僕はポケットに手を突っ込み、腰を丸めて寒さをしのぎながら、その並木道を歩いていた。

 

下を見ながら歩いていると、地面に霜が降りていることに気付く。茶色い土、少し枯れた芝生の上に、白い粉が降り掛かっている。冬だという感じがする。顔をあげて遠くを見ると、黄色い並木がずうっと続いている。

歩いているうちにだんだんと日が昇ってきたのだろう、木々の葉は照らされ、黄金色に輝きだしていた。木だけではなく、その下の落ち葉も、朝日は同じように照らしている。光りがこなごなに砕かれ、溶かされているようだ。

そしてふと思った、これはまるでお菓子ではないか。

茶色いスポンジケーキに、霜の粉砂糖がふりかけられている。金色の落ち葉は溶けたバターで、温かい光をたたえている。

そう考えると、ここらへん一帯は全部お菓子ということになる。

やっぱり冬は良い季節だな、と思った。