つづく日々(人を思い出す)

含蓄もなく、滋味もなく、大きな事件も起こらない、自分のあやふやな記憶の中の日々と人々とを散漫に思い出して書きます。

みそ汁のこと

みそ汁からは、その人の家庭が見えてくる。本当に、家によってみそ汁のバリエーションは様々だ。ある家庭で普通だと思っていた具材が、あっちの家庭では珍しかったり、ある人のこだわりが、別の人には全く理解されなかったり、そういうことが往々にしてあるものである。

 

数年前だったか、なめこのみそ汁を作ってもらったとき、なめこと一緒に白白としたもやしが入っていて面食らった。「なんでもやしなの?」と聞くと、昔からなめこ汁にはもやしだったの、と言う。食べてみると、やわらかななめこと、子気味良い音を立てるもやしの食感が正反対で、おいしい。僕の中では、なめこともやしを組み合わせる発想がなかったから、楽しい発見であった。

 

みそ汁のいいところは、好きな物を適当にほうりこんでも、それを許容してくれる、度量の大きさにあると思う。みそ汁はおよそなんでも入る。わかめ、しめじ、キャベツ、じゃがいも、とろろ昆布、にんじん、さといも、豆腐、玉ねぎ、ふ、しいたけ、油揚げ、しじみ、あさり、大根、なす、ねぎ、伊勢海老、かぼちゃ、さやえんどう、れんこん......きりがない。人種のサラダボウルなんていう言葉があったけれど、サラダボウルをみそ汁に変えても成り立つのではないかと思う。

 

この前作ったみそ汁は、好きなものだけを入れたみそ汁だった。

朝。だしをとる。味噌をとかす。みょうがを薄く切る。三つ葉をちぎる。この紫と緑とを、ひょいとみそ汁に放り込んで、香りとシャキシャキ感が飛ばないうちに火をとめる。お椀についだら、輪切りにしたすだちを2,3枚かさねて、そっと水面に置く。

これは、たくさんの具をもぐもぐと食べて楽しむみそ汁というより、香りを楽しむみそ汁である。湯気とともに鼻腔にしっとり着地するあの香り。口に含むと、まずゆずの酸味がくる。次いで、みょうがのすがすがしい刺激、3番手は三つ葉の上品な歯触り。後味で再びゆずの爽やかさが余韻を残す。みょうが、三つ葉、すだち。この3つのどれかが欠けてもいけないし、ここに何か足すのもいけない気がする。特に、寒い朝の、世界がしんとしていて、肌の表面の感覚がいつもより鋭敏になっているようなときに、こういう味噌汁を飲むと、体の中のきゅっと固結びされている部分が解きほぐれる。簡単だから、作ってみてください。